【海と毒薬】著:遠藤周作

戦時中に九州のとある医大で行われた米人捕虜の生体解剖という、実際にあった事件を基にした話である。

私達は、「海」のような自分の力ではどうすることも出来ない大きな流れの中で生きている。自分の置かれている立場・時代によって、意思とは関係ない道へと進んでしまうことがある。生体解剖に関わった勝呂・教授・看護師・助手にもどうすることも出来なかったのだ。そこにもはや意思などなく、各人が「どうでもよいことだ」と嘆いている。しかし、流されるまま行き着いた結果、検証のためとは言え、生きた人間を殺すという「毒薬」に成り下がってしまった。

大きな力には逆らえず、自分を正当化し、楽な方へと進む流れは、いつの時代にも言えることだろう。社会の中で生きるということは同時にそういうことなのだ。

しかし、流れに逆らって生きる者も増えてきた。結婚して家庭に入ることが女性の幸せと言われてきたが、果敢に働いて自分の人生を生きる女性、良い大学を出て大手企業に勤める、もしくは官僚になるキャリアを捨てベンチャーを企業したり、youtuberや芸人になる者達がいる。不確かな道を進む彼らは、従来の考え方を持った人々に批判され、不思議がられ、厳しい道を進んでいる。世間の目が冷たくとも、自分が信じた道を進んだ方がよい。自分の人生を生きるために、毒薬に負けることなく、また、自分自身も毒薬になることなくひたすらに泳ぎ続けなければならないのだ。

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